ランチェスター戦略

この戦略は、

 ランチェスターの法則の生みの親であるF.W.ランチェスター(1868〜1946)が第一次世界大戦が勃発したとき戦闘機の数とその損害量についてにどのような関係があるかを追求し、どのような法則性があるかをまとめたものがランチェスターの法則です。

 ランチェスターの法則に最初に着目したのは太平洋戦争を迎えたときのアメリカ数学者たちでした。戦時研究をを行っていたNDRC(Nationarl Defense Reserarch Committee)の援助の下で活躍していたORチームのメンバーたちです。

 OR(オペレーションリサーチ)やQC(クオリティーコントロール)はいかに運用を上手くするか、いかにして能率を改善して、より合理的に生産をするかという問題が中心でした。
 戦争が終わりORを生産活動に利用しようという動きが起こりました(最適値を求めるような線形計画方などが代表的な手法であります)。
 同様にして、ランチェスター戦略も戦略経営に関する考え方として一時期はやりました。単に統計的手法によるマーケッティングではなくシステムや組織、方法論として、技術、心構え、問題に対するルールという物を全部考えることを中心にして考えてゆく方法論です。


ランチェスターが発見した二つの法則

ランチェスターの第一法則(一騎打ちの法則)

 昔のように槍や刀など一騎打ちで戦うような武器で戦ったときに兵士の数が多い方がその分だけ勝と考えた法則。 
ランチェスターはこの法則を

 という式で表しています。

M。は味方の初期兵力数、
Mは味方の残存兵力数、
(M。-M)は味方の損害量のことであります。
Nは敵の初期兵力数を表しています。
Eは交換比でいわゆる武器の性能の比率であります。
良い性能の武器ほどこの値は高くなります。

 この式から分かることはもし武器の性能比が同じ(E=1)であるなれば敵味方の初期兵力の差がそのまま味方の残存兵力数になり、勝負が決まってしまうということがわかります、兵力数の少ない方が勝つためには武器の性能をその分だけ良くすれば良いというわけです。

ランチェスターの第二法則(確率戦闘の法則)

 一騎打ち型の戦いを前提にした第一法則に対し機関銃や航空機のような一人の兵士が多数の兵士をねらい打ちできるような兵器を使って戦闘をする事を前提として導き出された法則です。
 ランチェスターはこの法則を

という式で表しています。M。, M, E, N。, Nの意味するところは第一法則と同じです。
 第二法則は、広域戦的な総合戦、あるいは近代兵器を使う場合の確率戦に適用されます。
例えば、A軍が3人、B軍が二人でA、B両軍が戦った場合、第一法則の一騎打ち型の戦いであればA軍が一人生き残りB軍は全滅してしまうというわけになります。
 これが機関銃のような確率兵器を使って戦えばどうなるか、この関係を計量的に法則化したものが第二法則です。

 上の場合について考えてみます。
・A軍一人当たりのB軍から受ける攻撃量は1/5の確率を持っている攻撃が3つ、B軍一人当たりのA軍から受ける攻撃量は1/3の確率を持っている攻撃が5つということになる。
 その結果、双方の損害量は「3/5」対「5/3」つまり、9対25という割合になり、双方の兵器の性能が同一であると仮定すれば、兵力数の二乗数の戦闘力の差となって表されます。即ち、初期兵力数の2乗と2乗の力関係で戦うことになるわけで、兵力数が5対3なら、9対25の力関係で戦うのと同じことになるのです。

 第二法則の式においてEを1とすれば、敵の残存兵力数をゼロにするには、

すなわち

という条件が必要になっています。

 結局、2乗の差の平方根で残存兵力数が規定されます。ですから上の例をこの式にあてはめてみると、

ということになり、

なのでB軍が全滅するまでにA軍は1人しかやられていないという計算結果が得られます。


 2つの基本法則から導き出される七つの結論と二つの戦略。

  1. 勝負という物は敵と味方の兵力関係できまる。
  2. 戦闘力は兵力数と兵器の性能で決まる。
  3. 強者は弱者に対して常に有利な立場にいる。
  4. 戦略には強者の戦略と弱者の戦略があるが両者は根本的に異なる物である。
  5. 敵との差別化が勝敗を決める要因となる。(武器の性能比)
  6. 一点集中攻撃こそが最大の成果を上げる。
  7. 実践では、局地戦と確率戦を使い分ける必要がある。

 

J:弱者の戦略
   五つの原則

K:強者の戦略
  五つの基本原則

 アメリカ軍はこの弱者の戦略と強者の戦略を巧みに使い分けていました。連合艦隊による戦い方と島に上陸するときの作戦は違っていました。たとえば中部太平洋の島々における多くの上陸作戦において、アメリカ軍は必ず日本軍の3倍の兵力をつぎ込んでいました。
 ランチェスターの法則によって導かれた戦略を上手く発揮されていました。この時点で日本はこの戦略を知るわけもなく負けは決まっていたも同然だったのでした。

 戦争における戦略法則であるランチェスター理論を、販売における必勝の戦略と置き換えて考えると面白いです。

 以上のようにランチェスターは、数々の戦闘ケースをもとに、戦いには法則があることを発見しそこから戦略上重要なヒントが導き出されました。

 


 しかしランチェスター法則そのものは非常に単純な法則でたとえば補給という考え方は、そこには最初から入っていませんでした。そこでアメリカの数学者達は、ランチェスターの法則に修正を加え、それを「ランチェスター戦略モデル式」として展開し、戦争の戦略として一般化していきました。ランチェスターのモデル式は戦いは兵力が敵味方双方の兵力数が常に変わる中で行われ、兵器は常に生産されており、性能においても相手よりもよいものをという努力がなされ、補給力(防衛力)が大切で戦いとは刻々と変化するものであるという前提に立って作られたものです。

 ランチェスター戦略モデル式の優れているところはそのままマーケッティングの分野の問題に置き換えられることが出来るところです。 ここでは、ランチェスター戦略の一つの応用例を示して終わりにしたいと思います。

 企業間における販売競争の優劣は、市場占拠率によって判定されます。よって、販売競争において勝利を得るためには、占拠率を向上させるための戦略、戦術のは悪が重要になってくるわけです。
 そのためにまず欠かせないのは、シェア(占拠率)は何パーセントまでとっていくことが必要なのかという目標値の設定であります。
 シェアがなぜ重要かというと、シェアが高ければ、情報量も多くなり、打つ手の的中度が高くなります。情報量が多くなれば業界や商品市場に精通するからシェアが高ければ、価格の主導権がとれるし、物流コストの相対的な軽減すなわちスケールメリットが生まれてきます。そしてなによりもシェアNo.1を保持していると、自信とプライドが生まれてくるからです。

 ランチェスター戦略モデル式から的確な指標として三つの数値を導き出すことが出来ます。

 まず敵味方の生産率の比が一定である場合総戦力の比がどういう力関係の時にも出る式が均衡するかを計算すると、73.9パーセントという数値と26.1パーセントと言う2つの数値が得られます。

 そして敵味方の総戦力の比が一定であると見た場合41.7パーセントという数値が導き出されます。73.9パーセントと言う数値は、独占的条件シェアとも呼ばれていて、国際線におけるに日本航空のような立場です。国内会社中74パーセントの強いシェアを誇っています。この地位は、絶対的に安全となる数値です。

 この73.9パーセントを100から引いた26.1パーセントと言う数値はいわゆる劣性の上限というべき数値で全国粗鋼生産実績(94年度)から見る新日本製鐵のシェアの数値です。ちなみに新日本製鐵は世界最大の製鋼メーカーです。 この数値は、強者の最低条件を示す数値であります。しかし一位といっても不安定でシェア争いはまだ終わっていないことを示しています。従ってNKKや住友金属工業の頑張りによって新日本製鐡もおちおちしていられません。
 しかし、ここにあげた企業は、大きな会社ですが、小さな企業の場合は小さな地域を攻略対象にして小さなマーケットでもいいからとにかく圧倒的に強いナンバーワンを一つでも作っていくことが基本であります。

 戦争における戦略法則であるランチェスター理論を、販売における必勝の戦略と置き換えて考えると面白いです。考えてみてください。

  担当:(春本栄一)


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